ポキポキ音を鳴らす「スラスト法」とは
「スラスト法」は、施術の際に関節をポキポキ鳴らす技法です。治療家の中でも有用性に賛否があり、明確に安全性を裏付ける学術的根拠は現在も不在です。本稿では、極力多くの情報を集め、私自身の経験も踏まえて私見とリスクをお伝えします。
リラクゼーション?治療?
気持ちよさと医学的な疑問
関節を鳴らす行為は快感やストレスを逃がす手段になっているかもしれませんが、医学的にはその安全性に疑問を持つ声も少なくありません。確かにリリース感は得られますが、関節にどのような影響を及ぼすかは慎重に考えるべきです。
長期的な影響の研究不足
ポキポキ鳴らす施術が関節や筋肉に与える悪影響を証明する研究結果はまだありません。長期調査には膨大な費用と労力が必要で、研究者への利益がほとんど見込めない現状から、研究は進んでいないと言えます。
首ポキポキと椎骨動脈解離
学生時代の辛い思い出
私が医学生だった頃、同級生のお母様がカイロプラクティック治療院に通われていました。肩こりを楽にしたくて通う中で、ある日の施術後に椎骨動脈解離が生じ、脳梗塞を発症したという出来事があり、この問題は私にとって他人事ではありません。
30代以上は特に注意
動脈硬化は30代を超えると急激に増加するため、30代以上の血管はすでにある程度硬化していると考えても過言ではありません。血管壁の血栓が何らかの衝撃で剥がれ、脳や心臓の細い血管を塞ぐことで脳梗塞・心筋梗塞を引き起こす可能性があります。
研究結果からの考察
- 米国の大規模研究では、頸椎マニピュレーションと椎骨動脈解離リスク増加の関連性は示されていない
- 系統的レビューおよびメタアナリシスでも、カイロプラクティック・ケアと椎骨動脈解離の因果関係を示すエビデンスはないとされている
- 約100万回のカイロ治療調査では、深刻な有害事象は脊椎マニピュレーション治療の10万回に1回未満
これらから、適切に行われた頸椎マニピュレーションと椎骨動脈解離の直接的な因果関係は確立されていないと言えます。ただし、研究自体が著しく不足している現状を前提に理解すべきです。
外傷性骨折のリスク
国民生活センターの報告
国民生活センターの報告によると、手技による医業類似行為(整体、カイロ、マッサージ等)で発生した危害のうち9.6%が骨折で、特に胸部・背部の骨折に関する相談の大半は肋骨骨折・ひびの内容でした。
厚生労働省の警告
厚生労働省は、頸椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法について、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、禁止する必要があると警告しています。
まとめ:心と体を、ご自身を大切に
不適切な施術によって骨折などの重大な危害が発生する可能性があることを、公的機関の報告や学術研究が示唆しています。気持ちよさだけで判断せず、ご自身の身体と向き合う姿勢が極めて重要だとお伝えしています。心と体を、ご自身を大切に。
参考文献
- American Chiropractic Association:Vertebral Artery Dissection — An Evidence Review
- いずみ中央カイロプラクティック:カイロプラクティックの安全性について
- PubMed:頸椎マニピュレーションと椎骨動脈解離の関連性
- 厚生労働省:医業類似行為に関する検討会報告書
気持ちよさは、選ぶ基準として強いものです。強いからこそ、判断ごと預けたくなります。何が起きているのかを自分で確かめてから預けられる人は、施術者を疑わずに済みます。任せきりでいるあいだは不安が残り、分かって任せると、体のほうが落ち着きます。自分の体の決定権を持ったまま、人の手を借りる。ここで言っているのは、その状態です。