疲れているのが普通、という感覚
疲れていないと、さぼっているように見られる。休日も仕事のことが頭から離れない。体が重いのが普通になっている。こうした感覚を、自分は鍛えられている証拠だと受け止めている方は少なくありません。
そう受け止めるだけの積み重ねが、実際にあるのだと思います。ただ、慣れているのではなく、感覚が麻痺しているだけ、という可能性もあります。
慣れと麻痺は、内側からは同じに見えます。どちらも、つらさを感じにくい状態だからです。
「そんな言葉が存在すること自体が異常だ」
スタンフォード大学に留学した医師が、現地のルームメイトに日本の「過労死」という言葉を説明したときのことです。返ってきたのは、働きすぎて死ぬ、そんな言葉が存在すること自体が異常だ、という反応でした。
外から見れば異常値に映るものが、内側では普通として通っている。慣れというのは、そういう形をしています。
WHOとILOが2021年に発表した合同調査では、週55時間以上の長時間労働を原因とする脳卒中や心臓疾患で亡くなった人が、世界で年間74万5千人にのぼるとされています。日本を含むアジア地域が最もリスクの高い地域とされ、男性の死亡率は女性の約3倍で、働き盛りの経営者や管理職の層に集中している、とも報告されています。
こういう調査がある、というだけの話です。ただ、内側では普通として通っているものが、外の物差しではどう見えているかを知る材料にはなります。
ほぐしても、また元に戻る
厚生労働省の国民生活基礎調査では、男性の最も多い訴えは長年腰痛、女性は肩こりが最多でした。令和4年度からはこの性差がなくなり、肩こりと腰痛は性別を問わず上位に並んでいます。調査が始まった平成19年から、この状況はほとんど変わっていません。
整骨院に通っても、マッサージを受けても、そのときは楽になる。でもまた元に戻る。
整形外科の臨床の現場からは、肩こりや腰痛が体の悲鳴であると同時に、心からの合図でもある、という見方が語られています。ストレス、過労、睡眠不足が積み重なると、筋肉が無意識のうちに緊張し続けることがあります。部位をほぐすだけでは、そちらは動きません。
環境より先に、動かせるもの
ここで多くの方が思うのは、仕事量は減らせない、環境を変えるのは現実的ではない、ということではないでしょうか。
実は、変えられるのは環境より先に、思考の使い方のほうです。同じ業務量でも、思考が整理されている人とそうでない人では、疲労の溜まり方が違います。
判断のひとつひとつにエネルギーを使う。感情に振り回される時間が長い。休むことに罪悪感を持つ。人の目を気にして本音を抑え続ける。これらはすべて思考の癖です。癖である以上、気づけば変えられます。
点検の目安も置いておきます。起床時にすでに疲れている日が週に三日以上ある。日中、集中できない時間帯が決まっている。休日も仕事のことを考えてしまう。肩や首や腰の不調が続いている。睡眠時間は取っているのに疲れが抜けない。以前は楽しかったことが楽しめなくなった。いらだちの頻度が増えた。三つ以上当てはまるなら、疲れの合図に麻痺している可能性があります。
疲れていて当たり前。その前提を一度疑ってみる価値はあります。
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