同じ「治す」が、二つのことを指しています
風邪の症状に解熱剤を出す。痛みに鎮痛薬を出す。これは対症療法と呼ばれ、医師が日常的に行う治療のひとつです。目的は、訴えられている症状を速やかに和らげ、管理することにあります。
もうひとつが根本治療です。病気の根本的な原因に直接働きかける方法で、手術による骨折の治療や、腫瘍の除去術がここに入ります。
同じ薬が、どちらにもなることがあります。抗生物質は、原因となる細菌そのものを排除するために使われるときは根本治療にあたります。免疫力が著しく低下している方で、再発しやすい感染を抑えるために使うようなときは、文脈としては対症療法として使われることになります。
この二つは、互いに排他的なものではありません。痛みを抑えながら、同時に原因を特定して治療を進める。医療の現場では、この組み合わせのほうが一般的です。
医療と予防のあいだに、もうひとつ領域があります
保健指導と呼ばれる活動が、医療行為と、予防医学における健康増進の間に置かれています。医療機関の中で実施されることが多いのですが、厳密には医療行為ではないため、医療保険は適用されません。
医療は、病気や症状が出たあとに、診療や治療を通じて症状を和らげ、原因に働きかけるもので、保険が適用されます。保健指導のほうは予防医学に基づくもので、生活習慣の改善や病気の予防のために、医師や保健師が助言や支えを渡します。こちらは保険適用外です。
内容は二つの面から行われます。ひとつは健康増進で、食事、運動、睡眠、ストレス管理を扱います。もうひとつは疾病予防で、リスクが高いとされる方に対する早期発見とリスク管理を扱います。専門家が関わることで、早期の介入や、行動が変わるきっかけになる点が特徴とされています。
健康増進は、医療機関の外に置かれています
健康増進は予防医学の一環で、保険診療には該当しません。そのため、医療機関の中で行われることはほとんどありません。近年は自費診療として健康増進のプログラムを提供する医療機関もあり、健康運動指導士やトレーナーが在籍する健康センターといった名称で展開されることが多くなっています。
四つを並べると、こうなります。対症療法は医療で、症状を一時的に和らげるための治療。根本治療は医療で、病気の原因に働きかけ、長期的な回復を目指す治療。保健指導は医療と予防医学の間で、生活習慣、食事、運動、睡眠、ストレス管理の指導。健康増進は予防医学で、病気の予防や健康の維持を目的とした日常的な取り組みです。
医師は、この四つの領域を場面ごとに使い分けながら仕事をしています。
通うことが目的の場と、離れることが目的の場
健康増進を目的にした習い事やフィットネスも、この区別で見直すことができます。
ひとつは、通うこと自体が目的の場です。その場に参加することが主な目的で、その瞬間を共に楽しむことが目標になります。卒業を目指すのではなく、通い続けること自体に意味がある。会社と自宅の往復だけになりがちで気の合う友人が少ないという方にとって、その時間が大切な居場所になることは多くあります。
もうひとつは、初日から卒業を狙う場です。自分の体と心への理解を深め、健全な自己判断の力を育てながら、今日一日の生活を選んでいく。健康を増進させることが、さまざまな病気の予防につながるという考え方に立っています。
ここまでが、四つの領域の区別と、その見分け方の話です。ただ、区別がついたあとに残るものがあります。卒業を目的にした場に身を置いたとして、その卒業がいつなのかは、通っている本人からはいちばん見えにくいところです。まだ続ける時期なのか、もう離れてよい時期なのかを、何を見て決めるのか。これは領域の区別とは、別の問いになります。
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