PM&Rとは——「身体の回復」の総監督医
PM&R(Physical Medicine and Rehabilitation)は、身体の回復とリハビリテーションを総合的に監督する医師の専門領域です。
米国で確立され、4〜5年の専門研修プログラムを経て専門医となります。その特徴は以下の3点に集約されます。
- 運動器疾患の保存療法に特化した訓練。手術以外のあらゆる治療法——運動療法、徒手療法、薬物療法、物理療法——を統合的に扱えるよう訓練されています
- 診断から治療まで一貫して行う。診断する医師と治療を指示する医師が別、という日本の分断モデルとは異なり、一人の医師が最初から最後まで責任を持つモデルです
- 非手術的アプローチを中心とした包括的な治療。「手術するかしないか」の二択ではなく、手術を避けながら最大限の機能回復を目指す包括的なアプローチを提供します
世界でのPM&R普及状況——北米、ヨーロッパ、アジア
北米は、確立された制度です。カナダがアメリカと同様の制度を採用しています。北米では、運動器障害・リハビリテーション領域でPM&R専門医が中心的な役割を果たしています。
ヨーロッパでは30カ国以上で実践されています。「PRM(Physical and Rehabilitation Medicine)」という名称です。主要国の例は、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、スイス。これらの国では、専門医が幅広いリハビリテーション医療を提供しており、運動器障害・脳卒中後のリハビリ・脊髄損傷・スポーツ医学など多岐にわたる領域をカバーしています。
アジアでも台湾や韓国で発展が進んでいます。特に台湾は、PM&R専門医の養成に力を入れており、アジア地域のリーダー的存在です。韓国もこれに続き、制度整備が進んでいます。
これらの地域的動向は、高齢化社会における運動器医療の重要性が世界共通の認識となっていることを示しています。
日本にPM&Rがないことの意味——組み合わせを決めているのは誰か
日本には、PM&Rに相当する診療科が存在しません。これは単なる「制度の違い」ではなく、患者の体験に直接影響する重大な問題です。
運動器の不調を抱える患者さんは、次のような選択肢を自力で組み合わせることを求められます。
- 整形外科(手術・投薬が中心)
- 整骨院(柔道整復師の施術)
- 整体・カイロ(民間資格)
- リハビリ施設(医師の指示下)
- 鍼灸院・マッサージ院
- フィットネスジム・パーソナルトレーナー
どれを、いつ、どの順番で、どう組み合わせるか——これらの判断を、医学的知識を持たない患者自身が行う必要があります。
結果として起きていることは、次のとおりです。
- 肩こり・腰痛が25年以上改善されない
- 施術による事故・怪我の報告が後を絶たない
- 慢性化して生活の質が低下する患者が多い
- 医療費が無駄に使われる
- 「治ったり治らなかったり」を繰り返す
なぜ日本ではPM&Rが確立されないのか
日本でPM&Rが確立されない背景には、複数の要因があります。
- 診療科の歴史と既得権。整形外科・内科・神経内科・リハビリテーション科——既存の診療科が運動器医療の一部を担っており、新しい診療科を設ける動機が制度的に弱いのです。
- 保険診療の枠組み。日本の国民皆保険制度は優れていますが、保険点数の設計が「病気を治す医療」に偏っているため、予防・統合的アプローチが評価されにくい構造があります。
- 医学教育の縦割り。日本の医学教育は専門特化が進んでおり、横断的な統合医療を教える土台が弱いです。
- 患者側の認知不足。そもそも患者側が「こういう医療があるべき」と声を上げることが少ない現状もあります。
日本の医療制度の強みを活かしながら補完する
日本の医療制度には、世界に誇れる強みがあります。
- 国民皆保険による公平なアクセス
- 高い手術技術と診断精度
- 医師の勤勉さと患者への献身
- 診療所から大学病院までの層の厚さ
これらの強みを否定する必要はありません。問題は、「治す医療」が強すぎて、「整える医療」「守る医療」が制度的に位置づけられていないことです。
個人レベルでできるのは、自分がこのギャップを認識し、不足を補う姿勢を持つことです。
11月——年末前に運動器医療を考える意味
11月は、一年の仕上げに入る月です。同時に、寒さで関節の痛みが出やすい季節でもあります。
この季節は、次のような点検に適しています。
- 今年一年で、運動器の状態はどう変わったか
- 通っている施設は自分に合っているか
- 統合的に管理してくれる相手はいるか
- 来年に向けて、運動器戦略をどう組み立てるか
日本にPM&Rがない現実を嘆いても始まりません。この制度的ギャップを個人レベルで補う姿勢を持つことが、健康の質を大きく変えます。年末を前に、自分の運動器医療のあり方を見直してみませんか。
どれを、いつ、どの順番で。この判断を一人で持たされたまま、同じ場所が同じように痛み続ける。ここからは、抜けられます。
抜けたあとは、四つの点検に答えた紙が、そのまま来年の運動器戦略になります。整形外科で何をしてもらい、運動をどこで続け、いつ見直すか。通っている先を自分の言葉で説明できるようになり、寒くなる時期を身構えずに迎えられます。