少し調子が崩れると、「また戻るのでは」が立ちます
心療内科やカウンセリングで一時的な回復を遂げたものの、仕事も人生の環境も変わらない中で、こんな不安を抱える方がいます。「また無茶をしてしまうのではないか」「治療前の元気な自分に戻れないのでは」「ぶり返してしまうのでは」「少し調子が悪いだけで、また落ちていくのでは」。
こうした予期不安は、一度心の不調を経験した方が共通して抱える感覚です。「治りきった」と自信を持って言える瞬間が、なかなか訪れない。そして共通しておっしゃるのは、「専門家に気軽に相談できる場がなかった」「これからどう自分と向き合っていいかわからない」ということです。
身体と同じように、心にもリハビリという視点があります
整形外科の臨床現場では、手術や急性期治療の後にリハビリテーションが当たり前に行われます。回復した筋力を維持し、再発を防ぎ、日常生活への復帰をスムーズにするためです。
しかし心の不調の場合、カウンセリングや投薬といった急性期治療が終わった後の「心のリハビリ」が体系化されていないのが現状です。だからこそ、回復した方が再発への不安を一人で抱え込むことになります。
心のリハビリの視点を持てば、「また戻るかもしれない」という不安は、回復プロセスの一部として扱える可能性があります。
EMDRという選択肢があります
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する有効な心理療法として知られています。WHO(世界保健機関)や各国のガイドラインでも推奨されている、エビデンスに基づいた手法の一つです。
対象となるのは、大規模な災害や事故だけではありません。仕事上の大きな失注やプロジェクトの失敗といった不成功体験、上司や同僚との人間関係のトラブル、スポーツでの挫折や大きな怪我、学校時代の深い悲しみや屈辱、家族関係で積み重なった感情の記憶。一見些細と思われる体験も、心の不調の根本原因になっていることがあります。こうした体験が自己評価に歪みを生じさせ、「自分はダメだ」「また失敗する」という思い込みの土台として定着することがあるのです。
EMDRは、こうした歪んだ認識や解釈を修正し、身体の不調や生きづらさの根本に働きかけるアプローチです。眼球運動などの両側性刺激を用いながら、過去の記憶を再処理していきます。話を聴いてもらうだけでは届かなかった層に、アプローチできる可能性があります。
判断は、医師のアセスメントから始まります
EMDRは、すべての心の不調に要るわけではありません。「とりあえずカウンセリング」「とりあえずEMDR」ではなく、一人ひとりに最適なアプローチを見極めることが重要です。
望ましいのは、三段の順序でしょう。まず医師のアセスメントを受け、心身両面の状態を整理する。次に、心理療法が必要か、思考のトレーニングで十分か、他の専門家に相談すべきかを判断する。そのうえで、必要な場合のみ、認知行動療法やEMDRに特化した臨床心理士・公認心理師と連携する。
「自分に心理療法が必要かどうかわからない」という段階で相談できる場があることが、回復の長期安定には重要です。健診のあとに身体の数値を点検するように、心の現在地も点検する習慣を持つことが、再発予防の第一歩になります。
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