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身体の怪我と一緒に「心も怪我をしている」——20年の臨床で気づいた視点

整形外科の臨床現場で20年近く患者さんと向き合ってきて、言えることがあります。

公開日:2025年3月27日 / からだのこと

「なぜ私がこんな目に」——身体の怪我と心の怪我は、同時に起きている

痛みや怪我は、通常「避けたいもの」「悪いこと」として捉えられがちです。

「なぜ私がこんな目に」「痛くて夜も眠れない」——こうした苦しみは、身体だけでなく、感情にも強い動揺を引き起こします。

整形外科の臨床現場で20年近く患者さんと向き合ってきた経験から言えるのは、身体の怪我や不調は、ほぼ必ず心の怪我とセットで起きているということです。

具体的には、こんな変化が起こります。

  • 「また動けなくなったらどうしよう」という予期不安
  • 「自分はもう元に戻れないかもしれない」という絶望感
  • 「人に迷惑をかけている」という罪悪感
  • 「なぜ自分だけが」という怒りや悲しみ
  • 社会活動・人間関係からの距離

これらは「弱い人だから起きる」のではなく、身体の怪我が引き起こす自然な心の反応です。

肩こりが取れない、腰痛が繰り返す——なぜ「身体を治す」だけでは不十分なのか

約20年にわたる医療現場での経験を通じて、私の医療観は大きく変化してきました。

身体の痛みや不調には、「不注意」や「無理をした」などの表面的な理由だけでなく、深層にある心理的な要因が隠れていることが少なくありません。

  • 肩こりが取れない
  • 腰痛が繰り返す
  • 手術後のリハビリが思うように進まない
  • 原因不明の慢性疲労が続く

こうした現象の裏に、ストレス、不安、思考の癖が関わっている場合があるのです。

身体と心の両方からアプローチすることで、より深く根本原因に向き合い、再発を防ぐ可能性が高まります。
逆に、心へのアプローチをしないまま身体だけの対処を続ければ、余計な負担をかけてしまうこともあります。

選択肢が増えたぶん、選べなくなった——「選べる医療」の時代に、何を基準に選べばいいのか

現代は、医療職や支援職の努力により、治療法の選択肢が大きく広がった時代です。

  • 従来の西洋医学(手術・投薬)
  • リハビリテーション
  • 漢方・東洋医学
  • 整体・カイロプラクティック
  • 心理療法(認知行動療法、EMDR等)
  • 運動療法・身体教育
  • ライフスタイル医学

選択肢が多いこと自体は、患者にとって大きな進歩です。
しかし同時に、「どれを選べばいいのか分からない」という新しい問題も生まれました。

21年目の医師としての立場で考えると、これからの医師の役割は「治す」だけではありません。
一人ひとりの人生がより満たされるように、最適なアプローチをコーディネートすることが加わります。

「選べる医療」こそが、今の時代の希望です。

日本の医療はもっと誇っていい——世界を見てきたからこそ伝えたい

スタンフォード大学病院のPM&R部門で学んだ経験から言えるのは、「日本の医療はもっと誇っていい」という確信です。

高い医療水準、国民皆保険制度、医師の勤勉さ——世界と比較して、日本の医療には多くの強みがあります。

しかし同時に、こうも感じます——身体の治療だけで完結する時代は終わりつつある、と。

日本の優れた医療を土台にしつつ、心のケア・生活全体へのアプローチ・自己管理の視点を統合することが、次の時代の医療の形です。

ジムに週3時間行くなら、心に週30分——「身体と心のセット」を前提にする4つの視点

一つめは、症状の裏に「感情の動き」があるかもしれないと疑うことです。
慢性的な不調がある場合、症状の悪化タイミングを記録してみる。
ストレス・人間関係・仕事の繁忙期と一致することが多いです。

二つめは、身体のケアと同じ時間を、心のケアに使うことです。
ジムに週3時間行くなら、自分の気持ちを整理する時間を週30分作る。
書き出すだけでも効果があります。

三つめは、「痛み=悪いもの」という発想を一度疑うことです。
痛みは体からのメッセージです。
無理をしているサイン、生活を見直すサイン、心が限界に近づいているサイン——いろいろなメッセージがあります。

四つめは、一人の専門家に「全体を見てくれる相手」を持つことです。
各分野の専門家は必要に応じて複数持ちつつ、身体と心を統合的に見てくれる相談相手を1人持つこと。
年度末の節目に、この関係性を築く準備を始めるのは有意義です。

3月は、一年の締めくくりの季節です——医療観をアップデートするタイミング

新年度を迎える前に、自分の医療観・健康観をアップデートする最後の機会でもあります。

次の問いに、自分の言葉で答えてみてください。

  • 今年、身体の不調を経験したとき、心のケアはしたか
  • 痛みを「消す」対処に偏っていなかったか
  • 自分の専門家ネットワークに、心を含めた全体を見る人はいるか
  • 来年度、どんな医療との関わり方をしたいか

治療法を選ぶ基準は、「症状が消えるか」だけではありません。
人生全体がより満たされる方向に進むか——この視点を持つことが、新年度の健康への最大の投資になります。

同じ場所が、半年おきに痛くなる。
痛み止めを飲んで、その日を終える。
ここからは、抜けられます。

抜けたあとは、痛みが出た日に、その週の予定と気持ちを並べて見返せます。
相談する先を、症状の名前ではなく自分の言葉で選べます。

そのうち、身体と心をまとめて話せる相手が一人できます。
新年度に持ち越すのは、痛みの記録ではなく、その関係です。

※本記事は情報提供を目的としており、医療行為・診断の代替ではありません。強い症状がある場合は、必ずかかりつけ医または専門医にご相談ください。