ケアしているのに、回復しきれない
手術後のリハビリに真面目に取り組んでいるのに、元の状態に戻りきらない。ジムに週2〜3回通っているのに、疲労感が抜けない。週末にしっかり休んでいるのに、月曜の朝が憂鬱になる。温泉や旅行でリフレッシュしたはずなのに、戻ると一気に疲労感が戻る。
心当たりのある方は、少なくないはずです。ちゃんと休めているはずだから大丈夫、と流してきた違和感の正体は、身体のケアだけで心を置いてけぼりにしていることかもしれません。
身体が怪我をしたとき、心も一緒に怪我をしている
整形外科医として多くの患者さんに関わってきた経験から言えるのは、身体に怪我を負ったとき、実は心も一緒に怪我をしているケースが多い、ということです。怪我をきっかけに起こる心の変化は、本人にしかわからないことが多いものです。
スポーツ選手が、競技復帰への恐怖心からチームとの連絡を避けるようになる。担当医から大丈夫と言われても、不安が消えない。また悪くなるのでは、という予期不安で動きが縮こまる。リハビリが思うように進まず、自分を責めてしまう。
これはスポーツ選手に限った話ではありません。健診で要注意と言われた経営者、腰痛で長く悩んでいる方、肩こりが慢性化している方。あらゆる人に当てはまる、心まで疲れてしまった状態です。
現代では、不調があると行動でアプローチする傾向があります。術後の方は身体のリハビリに集中する。スポーツをしている方は練習とトレーニングの量を増やす。忙しい方は休暇を取り、旅行や美食でリフレッシュする。どれも大切な行動ですが、共通しているのは、身体の外側から整えるアプローチだという点です。身体を壊したときのショック、落ち込んだ日々の記憶、モチベーションの低下、人間関係の疎遠。心の側面は置いてけぼりになりがちで、外側をいくら整えても、内側に置き去りにされた感情があれば、本当の回復には届きません。
セットケアという発想
セットケアとは、身体へのアプローチに心の整理を組み合わせる、統合的な考え方です。
術後リハビリ中の方なら、身体のリハビリと同時に、怪我をしたときの気持ちを言語化します。怖い、悔しい、情けない。そうした感情を、否定せずに受け止める時間を作る。これだけでリハビリの進み方が変わることがあります。
トレーニングをしている方なら、練習メニューに加えて、思考の癖や感情の浮き沈みにも目を向けます。試合前の不安、結果が出ないときの焦り、仲間との比較。こうした心のノイズを整理することで、身体のパフォーマンスが発揮しやすくなります。
忙しくてセルフケアの時間がない方なら、旅行や食事などの気晴らしに出かける前に、5分でも心を整える時間を持ちます。これだけでリフレッシュの質が大きく変わります。身体を動かす前に、頭の中を空にする。この順番が大切です。
第一歩は、気づくこと
セットケアを始めるのに、特別な道具や施設は必要ありません。最初のステップは、もしかして心も疲れているかも、と自分で気づくことです。
点検の項目が五つあります。身体のケアは続けているが、気持ちの切り替えができていない。休めているはずなのに、疲れが抜けない。自分の不調について、誰かに話した記憶が最近ない。怪我や不調をきっかけに、人との関わりを減らしている。もう治らないのでは、という予期不安がある。二つ以上当てはまる場合、身体のケアに加えて、心のセットケアを取り入れる意味があるかもしれません。
健診の結果を受け取ったあとは、身体の数値を見直す機会であると同時に、数値の向こうにある心の状態を見直す機会でもあります。身体と心は、分けられないセットです。
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