慕って集まってくれた人たち——オンラインサロン運営者のメンタルは、なぜ特別なのか?
産業医・整形外科専門医として、最近とくにご相談が増えているのが、オンラインサロンやコミュニティを運営されているリーダーの方々です。企業経営者とはまた違う形で、メンタルの負荷が蓄積している方が少なくありません。
企業経営者と、オンラインサロン運営者には、共通点と違いがあります。
共通点は、「最終責任者」として意思決定の重みを一人で背負っていること。
決定的な違いは、読者・メンバーとの関係性です。サロン運営者にとってのメンバーは、従業員ではなく「慕って集まってくれた人たち」。この関係性が、弱音を吐けない構造を作ります。
企業経営者は、少なくとも経営者仲間に愚痴を言える場があります。しかし、サロン運営者が「最近しんどい」と発信すれば、メンバーが離れるかもしれない、コミュニティの空気が揺らぐかもしれない、と感じてしまう。結果として、企業経営者以上に「どこにも弱音を吐けない」状態に追い込まれることがあります。
「弱っている姿は見せられない」——メンバーが増えるほど、なぜ弱音を吐きにくくなるのか?
臨床現場でよくうかがうのは、次のような声です。
「私が発信することを、信じて集まってくれている人がいる。だから弱っている姿は見せられない」
「一人でも動揺させたら、コミュニティ全体に伝播する気がする」
「リーダーが揺らいだら、誰も守られない気がしてしまう」
これは、リーダーとして真面目で誠実な方ほど強く感じる構造です。弱さではなく、責任感の裏返しと言えます。
しかし、ここに落とし穴があります。人間の思考と身体は、「弱音を吐かない」を長期間続けられるようには設計されていません。どこかで、蓋をした分の負荷が、別の形で出てきます。
体重、浮腫、依存の強度——「身体のサイン」として、どんな変化が現れるのか?
当院のメンタル思考トレーニングにご相談に来られるサロン運営者・コミュニティリーダーの方々に、共通して見られる身体の変化があります。
変化1は、体重が増える、戻せないことです。以前と同じ食事量・運動量のはずなのに、数kg増えたまま戻らない。食事制限をしても下がりにくい。
変化2は、朝の浮腫が何日も引かないことです。以前は一晩眠れば取れていたむくみが、午後になっても残る。顔・手足のどちらにも出ることがあります。
変化3は、何かへの依存の強度が上がることです。甘いもの、アルコール、SNS、買い物、ゲーム、海外旅行、高い支出の継続——これまでの自分なら「ほどほど」で止められたものが、止まりにくくなる。
これらはいずれも、「思考の使い方の負荷が、身体の恒常性の限界を超えはじめたサイン」と捉えるべき変化です。病気ではありません。しかし、放置すれば判断力・対人関係・そして身体の健康に波及する可能性があります。
整形外科の臨床現場で何度も経験してきたこと——なぜ「メンタルの不調」が「身体のサイン」として先に出るのか?
メンタルの専門家は精神科医だと思われるかもしれません。しかし、整形外科の臨床現場で何度も経験してきたのは、身体の不調の背景に、思考の癖や感情の扱い方の問題が隠れているケースが少なくないということでした。
肩こり、腰痛、慢性的な疲労感、体重変動、浮腫、依存傾向——こうした身体症状が、メンタルの状態と関係している場合があるとされています。リーダー職の方は、「メンタルが弱っているのかも」と自覚する前に、こうした身体のサインに気づく方が先になることがほとんどです。
逆に言えば、身体のサインに早めに気づければ、メンタルの状態を整える介入を、「手遅れになる前」に始められます。健診結果で「異常なし」だったとしても、ご自身の身体感覚の変化に敏感であってほしい理由はここにあります。
週末だけでも書き留める——対処するなら、何から始めればよいのか?
臨床現場でお伝えしている第一歩は、シンプルです。
1つめは、身体のサインを「気のせい」にしないで、書き留めることです。週末だけでも、体重・浮腫・依存傾向のうち気になるものを書き留めてみてください。3〜4週間分たまると、自分の状態の波が見えてきます。
2つめは、「弱音を吐く相手」を、コミュニティの外に用意することです。メンバーや家族ではない、利害関係のない相手——友人、産業医、医療者、コーチなど——に、月1回でも話す場を持つことをおすすめします。
3つめは、思考の使い方そのものをトレーニング対象にすることです。「弱音を吐かないまま走り続ける」思考の癖は、自然には変わりません。意図的に、別の思考の使い方を練習する必要があります。
来月は、体重と浮腫を書いた紙が手元に4週間分あります。しんどいと言える相手が、メンバーでも家族でもないところに1人決まっています。
1年後には、コミュニティに向けて発信する日と、自分の状態を話す日が、予定表の別の場所に入っています。数kg増えたまま戻らない状態から、抜けられます。