月末に、選択肢を数えることがあります
月末に給与明細を見ます。数字は前年とほぼ同じで、この先もたぶん同じ。不満があるわけではありません。仕事は好きですし、患者さんのことも大切に思っている。それでも、ふとした瞬間に「自分の働き方の選択肢は、本当にこれだけなんだろうか」という問いが頭をよぎることがあります。
この問いは、特別に不満を抱えている人だけのものではありません。世界の医療従事者のデータを見ると、答えははっきりしています。
アメリカと日本の数字は、ほとんど同じ水準です
アメリカの医師団体であるAMA(American Medical Association、日本でいえば日本医師会にあたる団体です)が2025年5月29日に発表した資料では、自分の医院や会社のオーナーとして働いている医師の割合は、2024年時点で35.4パーセントでした。3人に1人という水準です。
日本はどうか。厚生労働省のデータからは、日本の医師全体のうち自分の医院を所有している開業医の割合が、約2〜3割と推計されています。3〜4人に1人にあたります。
数字の出どころは、AMA Policy Research Perspective「Physician Practice Characteristics in 2024」(2025年5月29日発表)、AMA Physician Practice Benchmark Survey 2012-2024、厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」です。いずれも年次で動く数字ですので、時点とあわせて読む形になります。
割合が高いのは、身体を直接扱う領域です
アメリカのデータを専門領域別に見ると、オーナー比率には大きな違いがあります。眼科が70.4パーセントで10人に7人、整形外科が54パーセント、外科系の他の専門領域が51.2パーセント。身体を直接扱う領域のほうが、今でも比率がぐっと高くなっています。
時間の幅でも見ておきます。アメリカでは1980年代に、医師の約76〜80パーセント、10人に8人が自分のオーナーだった時代がありました。それが40年かけて35.4パーセントまで減ってきた、という歴史があります。町の本屋さんが大型書店チェーンに飲み込まれていったように、個人経営の医院が病院グループに統合されていった。そういう40年です。
日本では、また別の構造がそうさせています。医局制度、保険診療制度、終身雇用文化。この三つが「臨床1本が当たり前」という空気を作っています。そして3人に2人は雇われている側ですから、日々の職場で出会うのは自分と同じ立場の人になり、もう一方の働き方は視界に入りにくくなります。
開業だけが、自分の名前で動く形ではありません
「自分の名前で動く」働き方は、開業や医院オーナーだけのことではありません。病棟で働きながら、若手看護師向けの院内研修の講師を月に1〜2回続ける看護師。病院のリハビリ業務を続けながら、週に1日だけ自分のスペースを借りて、一日に4人だけと向き合う自費の整体ルームを持つ理学療法士。現役の臨床を続けながら、認知症の高齢者を介護するご家族向けに自分の経験を一冊の本にまとめた作業療法士。ここに挙げた三人は、説明のために構成した架空の人物像です。
ほかにも、企業の健康相談アドバイザリーを副業で担う薬剤師、勤務医を続けながら企業の産業医契約を複数持つ医師、オンライン講座を開く専門家、自分の専門性で認定資格やプログラムを設計して後進を育てる形があります。共通しているのは一つだけで、「組織の看板ではなく、自分の名前で価値を届けている」ということです。
データを見れば、選択肢はある。ただ、その選択肢が見えにくいだけ。世界の医療従事者の3〜4人に1人は、今も自分の名前で動いています。
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