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「無理をしないで」と言う側が、無理を続けるとき

患者には無理をしないでと伝えながら自分には当てはめない、誠実に働く医師ほど起こりやすい構造の話です。

公開日:2024年3月7日 / からだのこと

患者には言えて、自分には言えない

患者さんには「無理をしないで」と言いながら、自分には適用しない。メンタルヘルスの知識がある分、「自分は大丈夫」と判断してしまう。医師ならではの、起きやすい矛盾です。

バーンアウト(燃え尽き症候群)は、突然起こるのではなく、段階的に進行します。そして、真摯に仕事に取り組む医師ほどリスクが高い、という構造が調査から見えてきます。

調査が示していること

エムステージ社が医師584名を対象に行った調査(2022年)では、医師の42%がバーンアウトと思われる状態を経験したと回答しています。発生のタイミングには傾向があり、専門医取得後が20%、初期研修時が20%、残りはその他のキャリアの節目。つまり、キャリアの節目に集中して発生していることがわかります。さらに、バーンアウトを経験した医師のうち42%が「何も対応せず、そのまま勤務を続けた」と答えています。燃え尽きていることを認識しながら臨床現場に立ち続けた医師が4割以上いる。医療安全の観点から見ても、看過できない数字です。

順天堂大学の和田裕雄氏らによる全国調査(Journal of Sleep Research、2024年)では、日本の医師の約40%が年間960時間以上の残業を報告し、週あたりの労働時間が10時間増えるごとに燃え尽き症候群の重症度が上昇する、という結果が示されています。時間外労働の上限規制が適用されたとはいえ、長時間労働は依然として深刻で、その多くが「患者のために」という使命感によって支えられています。

後回しになる、四つの構造

なぜ医師はメンタルケアを後回しにするのか。理由は四つあります。

一つ目は、相談相手が極端に少ないこと。同僚に弱みを見せにくく、上司に言えば評価に影響するかもしれず、家族に話しても医療現場の過酷さは伝わりにくい。医師は構造的に孤独です。二つ目は、既存のメンタルケアが医師向けに設計されていないこと。ストレスチェックは形式的になりがちで、カウンセリングは「話を聴いてもらう」だけでは物足りないと感じる方も少なくありません。臨床の現場感を理解した上でのサポートを受けづらいのです。三つ目は、「自分は大丈夫」という専門家バイアス。四つ目は、「弱さを見せる」ことへの職業的抵抗です。医師は「判断する側」であり続けることを求められ、「相談する側」になることに強い心理的抵抗を感じる方が多いのです。

体からの合図に、先に気づく

整形外科の臨床現場で気づいたのは、身体の不調の背景に、思考の癖や感情の扱い方の問題が隠れているケースが少なくないということです。慢性的な肩こり、腰痛、原因不明の疲労感、睡眠の質の低下、胃腸の不調。これらが「もう限界です」という体からのメッセージであるケースが、臨床現場の医師には非常に多いのです。

心の側の兆候もあります。患者への共感が以前より薄れている。朝の出勤が辛くなってきた。休日も仕事のことが頭から離れない。「こんなことで」と思う些細な失敗が増えた。同僚との会話が減った。自分が何のために医師を続けているかわからない瞬間がある。これらは弱さの表れではなく、体と心からの正当なSOSです。兆候があれば、すでに初期段階に入っている可能性があります。強い不調がある場合は、かかりつけ医や精神科・心療内科などの専門の医療機関に相談することが前提です。

自分の健康を後回しにするのは「プロフェッショナル」ではなく、医療の質と安全を損なう構造的リスクです。健診のあとに身体の数値を確認するのと同じ重みで、自分の思考と感情の現在地を点検する習慣を持つこと。それが、長く医師を続けるための最も現実的な投資かもしれません。

ここまでが、誠実な医師ほど燃え尽きやすいという構造の説明です。ただ、兆候に気づいたあと、診療を続けながら何から手をつけるかは、兆候の一覧とは別の問いになります。

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※本記事は情報提供を目的としており、医療行為・心理療法ではありません。個人の感想であり、効果を保証するものではありません。