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「痩せろ」と言われた記憶が、受診を止めることがあります

腰痛と体重の関係を、介護施設の腰痛検診の現場と、高度肥満者の骨格筋量を扱った研究から見直します。

公開日:2025年8月24日 / からだのこと

検診の場で、受診をためらう理由を聞くことがあります

腰痛のリスクを伴う職業に従事する労働者には、半年に一度の腰痛検診が義務づけられています。介護施設の職員も、その対象です。介護士約80名の腰痛検診を実際に担当した経験があります。

受診者数が多いので手際よく判断しなければなりませんが、小さな声を逃しては検診の意味がありません。目と耳を研ぎ澄まし、一人ひとりへ対応します。そのなかで、しびれの症状が出ている介護士さんがいらっしゃいました。

病院を一度受診されませんか、と伝えると、絶対嫌だと表情で訴えながら、こう答えられたのです。「『痩せろ』って怒られるから、絶対病院には行きたくない」。過去にそういった経験があるのだろうと感じました。医療者の言葉が患者さんの受診行動を左右している、という現実がここにあります。

腰痛が国民病であり続ける理由

介護士の腰痛は、深刻な職業病のひとつです。検診で見えた数字を並べると、一般労働者の腰痛発生頻度が約62パーセント、介護士が約85パーセント。約20ポイントも高く、介護の現場がいかに腰に負担をかけるかを物語っています。

腰痛は、国民が抱える身体の不調の第1位・2位を毎年獲得している国民病の1つです。根絶が難しいのは、何か1つ「これのせい」と原因特定がしにくいからです。

要因は四つの層に分かれます。前かがみ、持ち上げ、ひねりといった動作的要因。職場の設備、住環境、寝具といった環境要因。体型、筋力、柔軟性、年齢といった個人的要因。ストレス、人間関係、経済的不安といった心理・社会的要因です。これらが複雑に絡み合っていて、単一の原因には還元できません。

減量そのものを目標にすると、別のリスクが立ちます

腰痛と肥満の関係については、医学博士として研究してきたテーマがあります。博士号論文は「高度肥満者の骨格筋量」を研究した原著論文です。そこから得られた示唆は、「腰痛の原因は肥満」と単純には言い切れない、というものでした。

万が一、無理な減量を試みて腰背部を守る筋肉が落ちてしまうと本末転倒です。脂肪は減るが同時に筋肉も失う。腰を支える筋肉が弱くなる。別の腰痛のリスクが高くなる。基礎代謝が落ちてリバウンドしやすい。骨密度の低下リスクもあります。

博士号論文の結論は、次のようなものでした。「肥満であっても筋肉量を維持・増加させることで、インスリン抵抗性と呼ばれる身体への不具合が改善していく」。恐怖心で人を動かそうとしても、さまざまな理由から、無理な減量はおすすめしません。

減らすより、動かすほうへ

ダイエットの発想は「減らす」です。筋肉を味方につける発想は「動かして育てる」で、この順序の違いが長期的な結果を変えます。腰を守る鍵になるのは腹横筋や多裂筋などのインナーマッスルで、これらは派手な運動では鍛えられません。地味な動きを丁寧に繰り返すことが効果的です。

筋肉を増やすと基礎代謝が上がり、何もしていなくてもエネルギーを消費する身体になります。もう一つ、医療者の言葉選びという視点もあります。痩せろと言われて傷ついた経験があるなら、伝え方を工夫してくれる医療者を選ぶ権利があり、関係性が健康改善の前提条件になります。

「今からでも少しずつやっていこうね」。検診の現場で伝えているのは、この一言です。

※本記事は情報提供を目的としており、医療行為・心理療法ではありません。個人の感想であり、効果を保証するものではありません。
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